現代社会では、キャッシュレス化が急速に進んでいます。
かつては北欧の特筆すべき進歩として注目されていたキャッシュレス社会は、今では世界中でスタンダードとなりつつあります。
アメリカ、アジア、アフリカなど、地域ごとの状況は異なりますが、各地域でユニークな進化を遂げています。
しかし、その普及に一定の修正を加えなければならないという視点も見え隠れします。
日本は技術面での遅れはないものの普及面で課題を抱えており、本書はその現状を鋭く分析しています。
川野祐司著『キャッシュレス化は北欧だけではない』では、キャッシュレス経済と人生100年時代におけるマネープランの作り方を解説し、多方面から「おかね」の本質に迫ります。
キャッシュレス化は北欧だけではない!
キャッシュレス化というと、北欧のスウェーデンの例を挙げる人が多いかもしれません。
実際、スウェーデンでは現金の使用がきわめて珍しく、街中でもほとんどの場合カードかモバイル決済が使える環境が整っています。
しかし、キャッシュレス化はもはや北欧だけの現象ではなく、世界的なトレンドとして進行中です。
アメリカでは、PayPalなどの電子決済サービスが早くから浸透し、現在ではApple PayやGoogle Payといったモバイル決済サービスが広く利用されています。
これにより、クレジットカードを持たない人々や銀行口座を持たない若年層でも、キャッシュレスで快適な生活を送れるようになっています。
そして、アジアでも中国や韓国がキャッシュレス化を加速しています。
特に中国では、アリペイ(Alipay)とウィーチャットペイ(WeChat Pay)が地域経済のインフラとして大きな役割を果たしています。
このようにアジア諸国は、多様な電子決済手段の採用を進めています。
そして驚くべきことに、アフリカでもキャッシュレス取引が急速に広まっています。
ケニアのM-PESAなどがその典型例で、スマートフォンを使って簡単に送金ができるサービスが、日々の生活を迅速かつ簡素にしています。
この普及は、銀行口座を持たない「アンバンクド」(Unbanked)への新しい金融サービスとしての役割を果たしています。
銀行はオンラインからモバイルへ
デジタル化が進む中で、銀行業務も大きく変わり始めています。
かつてはオンラインバンキングが主流でしたが、今では多くの銀行がモバイルアプリを通じたサービス提供にシフトしています。
銀行のアプリにより、振り込みや残高照会、口座開設などがアプリ一つで完結する時代が到来しています。
このような流れは、特にアジアやアフリカで顕著に見られます。
多くの人々がスマートフォンを持ち、通信技術の進歩も相まって、モバイルバンキングは急速に普及しています。
さらに、銀行のモバイルアプリと連携した個人間送金アプリの普及も進んでおり、特に動きの速い市場では現金を持つ必要性がほぼなくなりつつあるのです。
また、銀行は単なるキャッシュレス決済手段にとどまらず、資産運用や保険、ローンに関するサービスも提供しています。
中には、AI技術を駆使した自動化された投資アドバイザーも登場し、個人の財務管理が飛躍的に進化しています。
銀行が提供するサービスの質と範囲が広がることで、個人の金融生活が大きく変わりつつあります。
日本では、技術的な進化は伴っているものの、依然として多くの人が現金を好んで使用している現状があります。
この変化への抵抗感には、社会的、文化的な要因も絡んでいると言えるでしょう。
しかし、多くの金融機関がモバイルサービスの充実に注力しており、普及は時間の問題とされています。
世界に広がる電子マネー
電子マネーは、キャッシュレス化の一翼を担う存在です。
電子マネーとは、電子的な形式で価値を保持し、支払い手段として利用できる資産のことを指します。
これには、例えばプリペイドカードやデジタルウォレット、ポイントシステムなどが含まれます。
日本では、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードが代表的な電子マネーとして広く普及しています。
これらのカードはその便利さから、交通機関だけでなくコンビニや飲食店でも利用されるなど、多目的に使われています。
ポイントや残高がアプリで確認できる便利さもあり、多くの人に受け入れられています。
海外では、先にも述べた中国のAlipayやWeChat Payがその代表例です。
これらは単なる決済手段にとどまらず、音楽やショッピング、チケットの購入といった日常生活のあらゆる面で利用されています。
つまり、一つの電子マネーサービスが生活全般におけるプラットフォームとして機能しているのです。
また、東南アジアのGrabPayやインドのPaytm、アフリカのM-PESAといった地域ごとの電子マネーも、それぞれの国の特性に合わせて巧みに導入されています。
これにより、地域経済の活性化や消費者行動の変革が進んでおり、キャッシュレス化のメリットを最大限に活用しています。
一方で、日本では電子マネーの競争が激しく、その数が多すぎるという意見も聞かれます。
利用者にとっては選択肢が多いことは良いことですが、同時に煩雑さや学習コストの高さが普及のネックになっていることも否めません。
出遅れ感のある日本市場ですが、徐々に一つのスタンダードが確立されていくことが期待されます。
仮想通貨が世界を変える
最近では、仮想通貨という新しい形のキャッシュレス技術が注目されています。
ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨は、その取引の透明性とセキュリティ性、取引の低コスト化などの観点から、多くの注目を集めています。
仮想通貨の最大の特徴は、ブロックチェーン技術に支えられたその仕組みです。
分散型のデジタル元帳によって、取引の情報は改ざんされずに安全に記録され、信頼性の高い決済手段として利用されています。
これにより、中央集権的な金融機関に依存しない自由な経済圏が生まれつつあります。
また、仮想通貨は国境を超えた取引が容易であるため、グローバル化が求められる現代社会において非常に有用です。
これまでの金融システムでは難しかった国際送金も、仮想通貨を使えばスピーディーに行われ、手数料も大幅に抑えられます。
ただし、その普及には様々な障壁もあります。
価格の変動が激しく、投機対象としての側面が強いため、安定した決済手段としては受け入れがたいという指摘があります。
さらに、各国政府の規制や法整備も追いついていない状況があり、その普及には慎重な対応が求められます。
それでも、この新しい技術は現代の金融シーンを大きく変えつつあります。
仮想通コースター確実に可能性を広げ続けており、今後も目が離せません。
迫りつつある電子通貨の時代
仮想通貨と並んで注目されているのが、電子通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)です。
これは各国の中央銀行が発行するデジタル通貨であり、デジタル上で直接法定通貨としての価値を持ちます。
すでに中国などでは試験的に導入され始めており、CBDCの波が迫っています。
電子通貨の最大の特徴は、政府がその価値を保証するため、通貨の信頼性が高いことです。
これは仮想通貨にはない安定性を提供し、政府主導のもと、より多くの人々に普遍的に利用されることが期待されています。
電子通貨の導入により、経済の効率化や税制の強化、公正で迅速な取引が可能になるとされています。
また、現金を用いる場合に比べ、犯罪の抑制や取引の透明性も高まるというメリットがあります。
しかし、電子通貨導入には課題も少なくありません。
個人情報の管理やプライバシーの保護に関する懸念、また社会全体のキャッシュレスへの適応が求められます。
技術的インフラの整備や、法的な枠組みの構築も重要です。
とはいえ、電子通貨は今後のキャッシュレス社会の中核を成す存在になると言われています。
これが実現すれば、我々の生活様式や経済活動は、さらなる進化を遂げることになるでしょう。
キャッシュレス経済の行方と金融教育
キャッシュレス化が進行する中、経済そのものの在り方も大きく変わりつつあります。
キャッシュレス社会では、消費者行動のデータ化が進み、これによって企業はより効率的なマーケティング活動が可能になります。
例えば、オンラインショッピングの履歴や電子マネーの使用履歴から、消費者のニーズをピンポイントで捉え、新たな商品やサービスを提供することができます。
また、キャッシュレス化は新しい産業を生み出すだけでなく、既存の産業を再編する力も持っています。
金融機関や小売業界では、AIやデータ解析を活用した新しいビジネスモデルが次々に登場しています。
これにより消費者は便利さを享受し、企業は新たなビジネスチャンスを得ることになります。
一方で、キャッシュレス化を進めるにあたっては、金融教育がますます重要になると考えられています。
特に若い世代に向けて、お金の価値や使い方、そして新しい金融技術についての知識を深めることが必要です。
これは単にキャッシュレス化に対応するためだけでなく、未来の経済社会で力強く生きていくために欠かせない教養と言えるでしょう。
金融教育を通じて、個人がキャッシュレス社会でより賢く、責任ある消費者として振る舞えるようになることが求められています。
教育システムの中にこれらの内容を組み込むことが、今後の大きな課題となっています。
キャッシュレス社会は、私たちの生活を劇的に変えつつあります。
そして、その行方は金融教育にかかっていると言っても過言ではありません。
「おかね」とはなにか: 多面的に捉える
これまで「おかね」とは何かを単純に答えるのは難しかったかもしれません。
しかし、キャッシュレス化が進む現代では、お金の本質を多面的に捉える必要性が高まっています。
キャッシュレス化に伴い現金はテレビジョンからフレームアウトしていく中で、残された"おかね"の本質的な役割や存在意義を問い直すことが大切です。
究極的には、「おかね」とは価値の交換手段であり、経済活動における潤滑油です。
キャッシュレスの時代においても、この役割は変わりません。
しかし、キャッシュレス化により、お金の形態は大きく変化してきています。
もはや、紙幣や硬貨という物理的な形にとらわれず、数字としてデジタルに扱われるケースが主流となりつつあります。
さらに、「おかね」そのものが持つ意味も現代では多様です。
暗号通貨による分散性や透明性は、新しい信頼の形を提示しますし、電子通貨のような政府発行のデジタルマネーは、国家経済の安定化に一躍買うと言われています。
このように、「おかね」は変わらぬ重要性を持ちながら、その形を緩やかに変え続けているのです。
私たちがこの新しい時代の「おかね」とどのように向き合うか、そしてそれにより私たちの生活や価値観がどう変わっていくのか。
それを理解することが、より豊かな生活を築いていくための鍵になるでしょう。
そしてそれが、未来のキャッシュレス社会を乗りこなすための、重要な要素となるのです。